材木にこだわり、手作業工程が多いため大量に生産することはできませんが、それでこそ高品質の家具がつくり出せるのです。
アビターレ・イル・テンポは、毎年イタリアのベローナで秋に開催される家具展示会です。広い会場の中、(確かベローナ市の文化イベントブースだったと思いますが)一つのハイチェストに目が留まったのは、わずか2日前に、まったく同じ物をフィレンツェで見ていたからでした。
■まったく同じモノ。実はまったく異なるモノ。
2日前の”それ”はダバンツァーティ宮で展示されていた物で、500〜600年前にダバンツァーティ家の幼子が実際に使っていた、愛らしいハイチェストでした。大きさはW60xH170cmぐらいで、上部に弧型に切り出した扉があり、内部には棚板が一枚、下部はいくつかの引出しになっていた。と記憶しています。鉄の丁番は錆付いてボロボロになり、無垢材の扉も形が歪み、木製の取っ手は今にも外れそうで、すでにその機能を失っているようでした。
ベローナで目にしたハイチェストは、色合い、打痕や虫食い痕など何百年もの経年変化の重みが見事に再現され、レプリカだとすぐに気づけない程でした。そう気付かされたのは、使用可能な取っ手が扉に付いていたこと、そして丁番も風合い良く作られていましたが、フィレンツェのそれのように壊れてはいなかったからでした。
キリスト教信者が国民の90%以上を占めるといわれるイタリアでは、教会の数もはかり知れないほど多く、それに付随する文化遺産も膨大です。教会の内・外部を飾る彫刻や絵画などが、盗難や劣化を防ぐために教会付属の美術館や博物館に保管されるケースも数多く見られます。そして、もとの場所へレプリカが置かれるわけです。あくまでも推測に過ぎませんが、文化を守るという観点から発展したレプリカ製造技術はマルケッティのような家具メーカーのアンティーク加工技術にも、受け継がれているのではないでしょうか。それは、普段の生活の中へ新たな文化を造り出したと考えられます。
あのハイチェストを造り上げた職人と同じように、マルケッティ社の職人もまた、想いを込めて家具造りに励んでいます。
乾燥が終了した材木はそった部分や樹皮がきれいに掃除され、製材されます。その板をホルムアルデヒトがほとんど出ない、食物繊維を原料にした接着剤を使用して熱圧着し、用途にあわせた一枚の板をつくります。
アンティーク仕上げは、いろいろな道具を使ってつくり出します。椅子1脚におよそ45分、キャビネットには半日かかる仕事です。何種類もの傷跡を使い分けて施すアンティーク加工は、仕上がりの雰囲気を左右する大事な工程です。
傷の種類: